物流基礎知識 輸出・輸入

特恵関税制度とは?概要と各税率の適用順位について

関税はたかが数%の違いでも金額によっては大きな違いがあるため、例えば輸入販売を行っている企業などの場合、生産コストとは別に商品を販売するまでの費用に大きく影響を与えることになります。

国同士の経済発展を促進させるための手段として、貿易は最善の方法の一つといえますが、関税が高くなりすぎると原価が嵩み、販売価格を上げるか利益を削減するかのどちらかの手段を取ることになるので、輸出や輸入の総量を積極的に増やすことが困難になります。

そのため発展途上国の輸出量または発展途上国からの輸入量を増やし、経済発展を促すために、一定の品目に通常の関税よりも低い税率を適用する特恵(とっけい)関税制度というものがあります。

今回の物流手帖では、特恵関税制度の概要、各税率の適用順位、また原産地規則についてご説明していきます。

※本記事は2023年9月時点の情報をもとに作成しています。

 

特恵関税制度とは

関税は輸入品にかけられる税金のことを指していますが、適用される関税率には以下のような種類があります。

 

・入国の際に個人で持ち込む貨物に適用される税率

・少額輸入の貨物に適用される税率

・通常の商業輸入の際に適用される基本税率

・一定期間に限り適用される暫定税率

・WTO加盟国や最恵国間で使用する協定税率

・EPA締結国から産品を輸入する場合に適用される税率(EPA税率)

 

そのほかに、国が定めた発展途上国(特恵受益国)や地域を支援することを目的として、それらの国や地域の原産品を輸入する際に課す税率を、通常の税率よりも低いまたは無税にする(特恵税率)といった制度で「特恵関税制度」があります。

特恵関税制度(一般特恵関税制度)は、英語でGSP(Generalized System of Preferences)と表記され、その対象となる品目は、一部の農水産品と例外を除く鉱工業品に分けて定められています。

なお発展途上国の中でも、特に発展が遅れていると認定されたLDC(Least Developed Countries)の産品の輸入の際は、ほぼ全ての品目に対して無税(特別特恵関税)が適用されます。

 

EPAについて

EPAとは、Economic Partnership Agreementの略で、日本語では経済連携協定といいます。

EPAはFTA/EPAと表記されることもありますが、FTAはFree Trade Agreementの略で、日本語で自由貿易協定のことを指しています。

 

FTAは、特定の国や地域との間で行われる貿易において、物品にかかる関税やその他の障壁等を削減・撤廃すること(貿易の自由化)を目的とした協定です。

 

一方、EPAはこれに加えて、投資や人の移動など様々な分野での国際間のやり取りを円滑に進めるために結ばれた、幅広い経済関係の強化を目的とする協定です。

輸出・輸入の対象となる貨物が、EPAの規定に基づく原産品の場合は、EPA税率を受けることができます。

 

EPA協定は各国間ごとに定められており、2022年4月時点では20個の協定が存在し、今後も増えるとされています。

(TPP11やRCEPなど)EPA税率を適用するには、各協定に定められた要件に従った原産地証明書が必要になります。

 

各税率の適用順位

上記でご紹介した通り、関税率には様々な種類がありますが、個人または少額輸入の場合を除いて、通常の商業輸入の場合はどの税率が適用されるのでしょうか。

法律上では原則として、次の①~⑤の順に優先して適用されます。

 

①特恵税率

②EPA税率

③協定税率

④暫定税率

⑤基本税率

 

⑤の基本税率を基本として、対象貨物の品目に暫定措置が規定されている場合は、④の暫定税率が優先されます。

次に取引先の国がWTO加盟国または地域、WTO非加盟国で最恵国の認定を受けている国の場合で、適用後の税率が⑤④の税率より低い場合は、③の協定税率の適用を受けることができます。

 

さらに両国の間でEPAが締結されている場合には、②のEPA税率の適用を受けることができます。

EPA税率は、適用後の税率が⑤④③の税率より低い場合で、①の特恵税率と同等もしくは低い場合に優先して適用されます。

 

①の特恵税率は最も優先度が高い税率ではありますが、特恵税率の適用対象国の原産品かつ規定の条件を満たす場合に限られており、加えてEPA税率よりも適用後の税率が低い場合にのみ優先される税率となります。

 

<例>基本税率が20%、協定税率が15%、EPA税率が5%、特恵税率が10%の貨物を、特恵税率の適用対象国から輸入する場合

・最も税率が低いのはEPA税率で、適用条件を満たす場合は「EPA税率」が適用される。

・最も税率が低いのはEPA税率であるが、何らかの理由でEPA税率の適用条件を満たさない場合は「協定税率」が提要される。

 

原産地規則について

EPA税率や特恵税率を受けるには、輸入国税関に証明書類である原産地証明書を提出することが義務付けられています。

原産地証明書は、貨物の原産国を証明する書類ですが、原産国を証明するためのルールとして「原産地規則」が定められています。

 

なぜこのようなルールが定められているかというと、生産が一ヵ国で完結している「完全生産品」の場合は言わずもがな生産国の判別は容易ですが、これとは別にグローバル・サプライチェーンの影響で、一つの製品に複数の国の部品や材料が使用されているケースが多々あるので、最終的にどの国で生産されたものなのかを決定付けるためのルールが規定されています。

原産地規則は品目や種類によって細かく分類されており、EPA税率を適用するための規則や、WTO加盟国間で使用する協定税率を適用するための規則など様々あるので、管轄の税関に正確な情報を確認するようにしましょう。

 

まとめ

今回は特恵関税制度の概要、各税率の適用順位、また原産地規則についてご説明しました。

本記事でご紹介したように、関税率には様々な種類があり、場合によっては基本の税額よりも安い金額で関税を納税することもできるので、事前にしっかりと情報を精査する必要があります。

なお、これらの制度は基本的に申告制となっているので、注意が必要です。

 

制度を利用するために必要な原産地証明書については、以下の記事でもご説明しておりますので、ぜひご覧ください。

 

参考原産地証明書の役割と取得手順について

原産地証明とは、輸出また ...

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