現代社会において、インターネットを通じて商品を販売・購入するEC(Eコマース)は、日常生活の一部として定着しつつあります。
その中で、海外のECサイトから直接製品を購入する「越境EC」の利用も頻繁に行われ、国際貿易という大きな枠組みが、今やスマートフォンひとつで完結する非常に便利な社会になりました。
その裏側(国際物流の現場)では、輸出入にかかる膨大な手続きが行われており、激増する小口貨物に対応すべく、手続きの円滑化や簡略化が進められてきました。
通常、海外から到着した貨物は、保税地域(外国貨物を一時的に保管する場所)に搬入された後、輸入申告と関税等の支払いを経て国内に引き取られます。
しかし、膨大な数のEC貨物を一つずつ通常通りに処理していては、物流がパンクしてしまうため、一部の航空貨物の手続きを大幅に簡略化・迅速化する「マニフェスト申告」や「予備審査制度」が、現在のEC業界に欠かせない重要なインフラとなっています。
取引量が増加する一方で、これらの仕組みの「手続きが簡単でスピーディー」という利便性が悪用されるケースが後を絶たず、これまでの優遇措置を見直す法改正の変更が、今年(令和8年/2026年)は立て続けに行われています。
特に令和8年7月21日から実施される「予備審査制度の見直し」は、リードタイムに直結する重要な追記事項が組み込まれます。
こうした一連の規制強化が進むなか、貨物のセキュリティ管理と法令遵守の体制が整備されたAEO通関業者の価値が、これまで以上に高まっています。
今回の物流手帖では、輸入通関におけるマニフェスト申告と予備審査制の概要、法改正と見直しの内容、そしてAEO制度との関係性について解説します。
輸入通関におけるマニフェスト申告と予備審査とは?
まずは「マニフェスト申告」と「予備審査制度」について解説します。
マニフェスト申告とは、航空貨物混載業者が取り扱う貨物のうち、法令で定められた少額貨物などの条件に該当する場合に、
一部の航空貨物において、簡易的かつ迅速に輸入申告・許可を得るための手続きです。
なお、物流におけるマニフェストとは、本船や航空機の積荷目録(船名や航空機便名、積地や揚地、
個数、重量などの積載貨物の詳細が記載された一覧表)のことを指しています。
マニフェスト申告を行う際は、専用の輸入(納税)申告書(マニフェスト通関用:様式C-5050)に、
この積荷目録を添付して税関へ申告します。
次に予備審査制度とは、貨物が日本に到着する前(または輸入承認などの他法令手続きが完了する前)の段階で、
あらかじめ輸入申告書類を税関に提出することができる制度です。
事前に書類を提出することで、税関の審査や検査についての事前通知(検査扱い、書類審査扱い、または簡易審査扱いなどの審査区分の通知)を受けられるため、
到着後の貨物の引き取りのための事前準備が行えます。
この制度では、全ての海上貨物・航空貨物が対象となるため、到着後の輸入手続きを急ぐ場合や、
他法令が絡む複雑な書類審査に時間がかかる場合などに広く利用されています。
今回、法改正や見直しが行われるのが、この予備審査制度を利用したマニフェスト等による輸入申告で、
輸入手続きの簡略化に伴うセキュリティリスクへの対策が強化されます。
令和8年度の法改正と見直しの内容
前項で解説した通り、マニフェスト申告や予備審査制度は、越境ECの利用頻度が盛んになった現代において、非常に利便性の高い仕組みです。
しかし、その利便性を悪用するケースが見られ、内容に誤りのある不適切な申告を繰り返す一部の事業者への対応が、税関の大きな課題となっていました。
そこで令和8年4月1日より、水際取締りの強化を目的に「マニフェスト申告・予備審査制の利用制限」が導入されました。
具体的には、通関業者に対して、以下(一部)のような「不正や不適正な事案」を継続して確認した場合に、全ての税関でマニフェスト申告や予備審査制度の利用が停止(制限)されます。
①仕出人・輸入者名、品名や価格などの誤った申告を繰り返す
②短期間に多くの申告撤回(取り下げ)を行う
③税関からの問い合わせに対して、長期間、回答をしない
④予備審査の段階(輸入許可が下りる前)で、貨物を搬出してしまう
⑤他法令の許可・承認等に係る書類、またその他必要な添付書類が輸入申告時までに提出、もしくは提示されないことが多い。
注意すべき点としては、通関業者の過失や故意によるものだけでなく、仕出人等との委託状況の不備に起因する場合も含まれる点です。
そのため、今後は通関業者だけでなく、仕出人等との連携を強化し、より一層、適正かつ正確な申告書類を作成する体制を構築していく必要があります。
さらに、この4月の利用制限に続き、令和8年7月21日より実施される、予備審査制度の通知時期の見直しについては、AEO制度の認定事業者や税関長に認められた事業者以外の者が、予備審査制度を利用したマニフェスト申告で輸入手続きを行う際に、本申告時まで審査区分が通知されなくなるといった内容です。
これにより、予備申告の時点では申告受理の通知のみしか受け取ることができず、対象の事業者は本申告時まで「検査があるかどうか」の確定ができなくなります。
そのため、到着後の貨物の引き取りやトラックの手配、納品スケジュールの調整において、これまで通りの見込みが立てづらくなるという懸念(実務への影響)が生じています。
AEO制度との関係性について
これまで解説したように、令和8年度はマニフェスト申告や予備審査のルールが厳格化されていますが、これら全ての規制(今年4月の利用制限、および7月の通知時期の見直し)の対象外となる「例外」が存在します。
それが、「AEO(Authorized Economic Operator)制度」の承認・認定を受けた事業者です。
AEO制度とは、貨物のセキュリティ管理と法令遵守(コンプライアンス)の体制が整備された事業者に対して、税関が承認・認定を行うことで、手続きの緩和や簡素化などの優遇措置を受けられる制度です。
この仕組みは、2001年に米国で発生した同時多発テロ以降、国際的なサプライチェーンの安全確保を目的にWCO(世界税関機構)によって採択され、日本には2003年に導入されました。
今回の法改正および制度の見直しにおいて、税関HPでは以下のように記されています。
①4月の利用制限
不適正な申告による利用停止措置の対象から、AEO通関業者は除外される。
②7月の通知時期の見直し
本申告時まで審査区分を通知しない措置の対象から、AEO通関業者やAEO輸入者は除外される。
つまりは、水際対策の強化によって一般の事業者の通関手続きが慎重(厳格化)になる一方で、日頃から法令遵守を徹底しているAEO事業者は、その影響を受けることなく、これまで通り、迅速かつ円滑な通関手続きができるということです。
税関もHP上でAEO制度の利用検討を推奨しており、今回の一連の見直しは、手続きの簡略化の窓口を一律に広げるのではなく、信頼性や安全性を重視した「事業者の選別」をより明確にする契機になったといえます。
まとめ
今回の物流手帖では、輸入通関におけるマニフェスト申告と予備審査制の概要、法改正と見直しの内容、そしてAEO制度との関係性について解説しました。
今年4月に導入された「利用制限」に続き、7月21日から実施されるマニフェスト申告における「審査区分の通知時期の見直し」は、特に越境ECの物流において、リードタイムや配送計画に少なからず影響を与える可能性があります。
今後は、手続きが完了するまでのスピード感だけを重視するのではなく、正確かつ適切な申告を行う体制が求められることになります。
そのため、通関業者だけでなく輸出入を行う当事者(荷主)にとっても、意識改革や最新の法改正への迅速な対策が不可欠となるでしょう。
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