国際貿易において、売り手側(輸出者)と買い手側(輸入者)の間で「費用をどこまで負担するか」や「輸送中のリスク(危険)がいつ移転するか」の基準を定めた国際ルールがインコタームズ(Incoterms)です。
インコタームズは、商習慣や文化の違いから生じる取引時の認識のズレやトラブルを防ぐために欠かせない共通ルールですが、特に輸入国側で通関手続きが絡む条件を選ぶ際には、それぞれの違いや実務上の注意点を正しく把握しておく必要があります。
今回の物流手帖では、インコタームズの種類と、トラブルが起きやすい「D類型(DAP・DPU・DDP)」における輸入国側での注意点、さらには近年の関税改正(令和5年・令和8年)が与える影響について分かりやすく解説します。
※本記事は2026年9月時点の情報をもとに作成しています。
インコタームズの種類
インコタームズ(現行のインコタームズ2020)では全11種類の取引条件が定められており、費用の負担範囲や責任の所在によって大きく4つのグループ(E規則・F規則・C規則・D規則)に分類されます。
・4つのグループの基本概要
① E類型(出荷作業完了渡し:EXW)
輸出者の工場や倉庫で貨物を引き渡した時点で責任が買い手に移る、売り手側にとって最も負担の少ない条件。
② F類型(主運賃未払い渡:FCA・FAS・FOB)
輸出国の港や指定場所で買い手側が指定した運送人に貨物を引き渡す条件で、国際輸送費は輸入者が負担。
③ C類型(主運賃払い渡:CPT・CIP・CFR・CIF)
売り手側が仕向港または目的地までの国際輸送費用を負担し、輸送中の危険負担は出荷地(輸出側)で移転する変則的な条件。
④ D類型(到着地渡し:DAP・DPU・DDP)
輸出者が輸入国の指定仕向地まで貨物を無事に届ける責任を負う、買い手側にとって最も負担の少ない条件。
D類型(DAP・DPU・DDP)を使用する際の輸入国側での注意点
インコタームズにおけるD類型は、買い手側にとって費用負担や危険負担の少ない条件ですが、「輸入国側での通関手続き・納税・荷降ろし作業等」が発生するため、実務上のトラブルが起こりやすいグループでもあります。
D類型(DAP・DPU・DDP)のそれぞれの条件については、以下の記事でイメージ図をもとに詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
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参考【インコタームズ2020】D類型(DAP・DPU・DDP)について
国際間の貿易取引を円滑に進めるために制定されているインコタームズには、E類型・F類型・C類型・D類型の4つの種類があり、それぞれの種類によって売主と買主の費用等の負担範囲が設定されています。 そこで今 ...
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D類型における注意点には、以下などがあげられます。
注意点①:通関手続きと納税責任の境界線
D類型のうち、DAP(仕向地持込渡)とDPU(荷降渡)は、輸入国での通関手続きおよび関税・消費税の納付を「買い手側(輸入者)」が行います。
一方、DDP(関税込持込渡)では「売り手側(輸出者)」が通関手続きと関税納付まで一括して行う取り決めになっています。
海外の輸出者が日本の税関手続きや関税評価に不慣れな場合は、通関手続きの遅延や申告漏れ、税額の相違によるトラブルに直結するリスクがあります。
注意点②:荷降ろし責任の所在
指定仕向地に到着した後の荷降ろしをどちらが行うかも重要なポイントです。
・DAPまたはDDPの場合
目的地に到着後「荷降ろしの準備ができた状態」で貨物を引き渡すため、荷降ろしや作業時の破損リスクは買い手側が負います。
・DPUの場合
売り手側が目的地で「荷降ろしまで完了させる」唯一の条件です。特殊な重量物や大型機器など、荷降ろしに専門設備が必要な場合は事前に手配しておく必要があります。
関税改正(令和5年・令和8年)がD類型条件に与える影響
D類型のうち、特に売り手側が通関手続きや納税責任を負う「DDP」においては、日本国内の法改正に対する実務上の負担も考慮しておかなければなりません。
特に近年では関税制度の見直しが相次いでおり、そのほか物流に関連する各種法令も度々変更されています。
DDPでの取引に関わる主な改正ポイントや実務への影響として、以下のような点があげられます。
①令和5年改正:非居住者申告(ACP制度)の厳格化
令和5年の関税法改正により、日本国内に拠点を有しない海外売主(非居住者)がDDPで輸入申告を行う際は、売主自身が輸入申告者となるため、国内の窓口となる「税関事務管理人(ACP)」の選任が厳格に義務付けられました。
従来の輸入代行業者などの名義を使用した通関手続きが排除されたことで、海外売主にとってDDPを履行するための手続きやコスト負担が増加しました。
②令和8年改正:関税評価・通関審査の厳格化と「DAP」移行の流れ
さらに令和8年度以降の関税改正や通関審査の厳格化に伴い、今後は課税価格(インボイス価格)の適正評価や関税率のチェックが一段と厳しくなることが予想されます。
これらの背景から、DDP条件のままだと、想定外の関税増額分を巡って売り手側と買い手側で費用トラブルに発展したり、税関対応の遅れから港や空港で貨物が長期間滞留するリスクが考えられます。
また同改正では、保税事業者に対する業務改善命令が創設されるなど管理体制の厳格化が進んでおり、保税地域での長期滞留ペナルティも厳しくなる見通しです。
そのため、通関手続きや納税を日本の買主(実質的な輸入者)が直接担う「DAP条件」への見直しや移行が、実務において大きな注目を集めています。
まとめ
今回の物流手帖では、インコタームズの種類と、トラブルが起きやすい「D類型(DAP・DPU・DDP)」における輸入国側での注意点、さらには近年の関税改正(令和5年・令和8年)が与える影響について解説しました。
インコタームズは単なる輸送コストの分担だけでなく、通関手続きの責任や関税リスクの所在を決定づける重要な契約要素です。
特にD類型を使用する際は、自社の通関体制や近年の関税法改正を踏まえ、予期せぬトラブルや滞留リスクを防げる適切な条件を選択することが大切です。
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