カルネ手帳は、海外で行う展示会や国際的なイベントなどで使用する職業用具や商品見本を外国に持ち込む際に、通関手続きをスムーズに進めることができる書類です。
通常の通関手続きでは、各国税関との煩雑なやり取りに加えて、輸出入申告書やインボイス・パッキングリストなどの貿易書類の作成が必要になりますが、カルネ手帳を使用する場合は、通関手続きが簡素化されるため必要書類も少なくすみ、免税措置の待遇や複数国での使用も可能となるので、海外でのビジネス活動において便利な制度です。
しかし、制度の理解だけでは不十分なケースもあり、実際にカルネ手帳を使用する国の税関実務に合わせた運用が必要不可欠となります。
今回の物流手帖では、実際の事例をもとに国によって異なる実務上の注意点についてご説明します。
※本記事は2025年10月時点の情報をもとに作成しています。
カルネ手帳を使用する際の注意点

カルネ手帳の使用を希望する場合、まずは日本商事仲裁協会のHPで利用登録をした後に、オンライン上で発給申請を行います。
基本的には画面の案内に沿って入力を進めていくことで申請を完了することができ、発給に必要な料金の支払いと審査が完了するとカルネ手帳を受け取ることができます。
申請時の重要なポイントとしては、カルネ手帳は輸出入の通関時に使用する書類であるため、発給申請を行う段階では国によって異なる実務上の注意点を見落としがちであるということです。
カルネ手帳の発給に関する主な注意点は、
①対象となる貨物が利用用途に適しているか
②一時輸入国が加盟国に含まれているか
③期間内での再輸出が可能かどうか
などが一般的にあげられますが、そのほかに実務上の注意点として、
①カルネ手帳の使用者欄(B欄)の記載
②輸入・再輸出証書の必要数の手配
③詳細かつ正確な物品リストの作成
などがあげられます。
②の輸入・再輸出証書の必要数の手配については、日本商事仲裁協会のHPにも記載があるように、例えばハンドキャリー通関で、輸入地がフランクフルトの場合には、ドイツ税関の指示により証書を余分に添付する必要があるので、同HPを上手く活用して事前に情報収集を行っておきましょう。
③の詳細かつ正確な物品リストの作成については、型番やシリアル番号などの固有の番号を物品全てに付与し、念のためにそれぞれ画像を撮っておくことで、万が一、現地で現物調査が行われた場合も安心して対応することができます。
また、そのほかに他法令に関する輸出許可の申請や一時輸出入国側でのライセンスの要否も重要になるため、事前に入念な確認を行い、手配に時間がかかるものから順に準備を進めていくよう心がけましょう。
①のカルネ手帳の使用者欄(B欄)の記載については、当社が請け負ったお客様事例をもとに以下に詳しくご説明をしていきます。
事例で学ぶ:カルネ手帳の使用者欄の記載について
カルネ手帳の使用者欄は、名義人(ホルダー)が、ハンドキャリーで自ら通関手続きを行う場合は問題ありませんが、フォワーダーに通関を含む国際輸送を委託する場合は、使用者欄に「日本の通関業者」「一時輸出入国の通関業者」そして場合によっては「一時輸出入国の荷受人」を記載します。
通常、カルネ手帳の使用者欄は「通関業者」のみで問題がないケースが多いですが、国によっては厳格に整合性を問われるケースもあり、実際に当社が請け負った、タイ向けのカルネ通関を利用した国際輸送のお客様事例においても、使用者欄の記載に関する問題に直面しました。
今回問題となったケースでは、タイで行われる国際的なイベントに出展される、お客様の展示サンプル品の国際輸送に関する案件で、現地で通関手続きを行うA社と荷受人が当社の現地法人(以下、B社)という構図のもと、航空貨物として日本からタイに向けて貨物を発送し、カルネ通関を行うといった段取りでした。
輸送する貨物は2種類あり、①カルネ通関の用途に適した貨物と②現地で輸入し消費する貨物をそれぞれ輸送し、①の貨物はカルネ手帳を利用した通関手続き、②の貨物は通常の輸入通関手続きを行う流れでした。
そのため、事前に発給したカルネ手帳の使用者欄にはA社のみを記載し、航空貨物の送り状(Air Waybill:AWB)の荷受人にB社を記載していました。
ここで問題となったのは、カルネ手帳の発給後に使用者欄に荷受人であるB社の記載も必要であるとなったことです。
タイの税関では、整合性を重んじる特別な事情があり、今回のように複数の企業が関わるケースにおいては、現地で通関手続きを行わない荷受人の名前も使用者欄に記載しておくのが通例とされていたため、最終的には名義人の署名が入った委任状を2通、A社とB社宛てにそれぞれ発行することでカルネ手帳の通関を行うことができました。
カルネ手帳は発給後に原本に使用者を追記することができないため、カルネ通関を行う国に通常とは異なる事情や通例などがある場合は、申請前に現地の通関業者や可能であれば税関または関連施設(タイの場合は商工会議所)に確認することをおすすめします。
なお、委任状のフォーマットについても国によって特殊な形式を求められることがあるので、事前に確認をするようにしましょう。
まとめ
今回は、実際の事例をもとに国によって異なる実務上の注意点についてご説明しました。
カルネ手帳を使った通関手続きは、ATA条約に加盟している国でのみ使用できる制度であり、条約の内容は最終的にその国の法令に準拠することになるため、制度の概要の理解に加えて、各国で使用する際の注意事項などを事前にしっかりと確認しておくことが大切です。
関連記事として、以下の記事では、ATAカルネの加盟国について解説していますので、ぜひご覧ください。
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